canについての語法的な解説の前に、非常によく耳にする疑問を先に解決したいと思います。それは「なぜ can の否定形にだけ cannot という1語でつづる形があるのか」です。
 canの否定形として「cannot」という「can+not」が合体した形があります。そして中学などでは極端な場合「can notと分けて書いたら間違いだ」などと教えられていたりもするようですが、そんなことはないのです。1つの傾向性として、特別な理由がない限り(どんな理由かは後で述べます)、「cannot」という1語の形が「より好んで用いられる傾向がある」というだけのことです。だから少なくとも、中学生が、「can not」という分離形を書いたとしても、それを間違いとしたり減点の対象としてはなりません。(cannotの合体形を勧めるのは構いませんし、「can not」と分けて書いた上にでも「cannot」という合体形を赤文字で添えておくのは適切な配慮と言えるでしょう。)

 「can」の否定は「can not」、「cannot」のいずれの書き方も正しく、ほとんどの場合、この2つには互換性があります。ただし特に「否定の意味」をことさらに強調するのでない限りは、より一般的に用いられている「cannot」を使うことをお勧めします。

 「cannot」という合体形のスペルが生まれた最大の理由は「意味や用法」の問題ではなく、単に発音上、canの語尾-nと同じ音で「not」が始まるため、「can not」という2語を読んだときにも「cannot」という1語に聞こえたというだけのことなのです。そしてそのスペルが一般化したのです。
 これに関してもインターネット上での頻出疑問の1つであるらしく検索してみると、「なぜcannotとつなげて書くのですか?」という疑問が多く見かけられました。そしてそれに対する回答は、99.9%が間違い、勝手な思い込みであり、「would rather」の否定が「would rather notだけが正しく、would not ratherは間違い」という嘘と同様に、いかにネット上の質疑掲示板の回答が信頼性のないものかを改めて痛感しました。

 OED(Oxford English Dictionary)には、can’t という短縮形はもちろんのこと、「cannot, can not」のいずれもcanの否定形として示されており、なんと「canot」という「nが1つ」の語形すら歴史上は存在したことまで書かれているのです。
 nが1つしかない「canot」というスペルが存在したのも、先に述べた「発音を文字化した」という事情によります。しかし音としては確かに「canot」ではあっても、意味としては「can+not」それぞれの意味がつながってこそなので、cannot という「音としての密接な連結」と「意味的な合理性」を兼ね備えたスペルが最も一般化したというわけです。(歴史的には存在した canot を今使うと、当然それは「間違い」と見なされます。)

 先のOEDには、「cannot」というスペルについて「the ordinary modern way of writing can not(「can not」の現代英語における一般的な書き方」)と説明されています。繰り返しになりますが、ここまでの話をまとめます。

「can」の否定形は「cannot」、「can not」のいずれも正しい。
現代英語の表記においては「can」の否定形としては「cannot」の1語形が一般的であり、特別な強調のニュアンスを込めない限り「can not」という分離形では書かれない。しかしこの両者はcanの否定として用いられている限り意味に違いはない。

 これに更に解説を加える必要があります。上のまとめでも「canの否定として用いられている限り」と書きましたが、そうではない場合もあるのです。そして「can’t」や「cannot」と書いてはならず、必ず「can not」と分けなければならない場合があります。

Jane can not only speak Chinese but write it.
(ジェインは中国語を話せるだけでなく、書くこともできる)

 この場合は「not only A but B(AだけでなくBも)」という構文が使われており、このnot は can の否定ではなく、「only speak(話せるだけ)」を否定しています。ですから「cannot/can’t」とすることができません。すなわちこの場合は「意味的にcanとnotが分離されていなければならない」のです。

 誤解ないように言いますが、その文に「not only...but」が単語として含まれていたら、「can not」と分けなければならないというのではありません。「not only...but」が構文として「AだけでなくBも」という意味を構成している場合が問題なのです。その意味になっていないことはありうるのです。

I cannot(=can’t) only watch baseball but want to play it.
(私は野球を見ているだけなんてできない。自分でプレーしないではいられないんだ)

 上の例は一見、「not only  ...but」が部品的には含まれているかに見えますが、この場合のnotは「can」を否定します。つまり「AだけでなくBも」という構文を作っていないのです。
 この場合、not は「can only watch(見ているだけで気が済む)」を否定していますので、それを否定するには「can」の否定としての「can’t/cannot」でよいのです。

(疑問)なぜ「can」だけは「cannot」という1語で書くスペルが定着したのか?
(解答)それは発音として「can」の語尾の音と「not」の最初の音が同じ/n/であるために「聴感上の印象」として、1語に感じられたからです。たったそれだけの「音声学的理由」によるものであるというのが正しい答えになります。(だから他の will not, shall not, may not, must notなどは、1語につづられないのです。)